敬愛
そりゃあびっくりなんてレベルじゃないだろ
もうビビるわ。
ありえねぇだろ
さっきまでピリピリしていた空気はどこへやら。
竜とか、まん太とか、俺とか、葉以外の奴ら全員が唖然。
「!」
あの鬼女将が、さっき葉に矢を打った仮面のやつの所に走って行った。まるで何年も逢ってない恋人に逢ったみたいに。それだけでも十分恐ろしいってのに、今まで一度も見たこともない笑顔まで浮かべて。
葉は葉でその光景を相変わらずのユルイ顏で微笑ましそうに見ている。
「っちょ。葉、なんなんだアイツ」
そっと耳打ちすると、ほんのり顏を赤くして機嫌の良さそうな独特の笑い声が返ってくる。
「オイラの用心棒さん」
「はぁ!?」
余計意味がわからなくなり、ホロホロは更に混乱する頭を抱えた。
「久しぶりね、」
「会いたかったよー…アンナお姉ちゃん」
きつく抱きしめるとそれに答える様にも抱きしめ返す。
お互い喋りたいことは沢山あったが今一番にがしなくてはならないことをアンナは知っていた。
名残惜しそうに抱きついていた体を離すとアンナに後でね、と意味を込めてニコリと微笑んでから葉とホロホロの元へと歩き出す。
葉の前までくるとキュッと真剣な顔つきになり片膝を地面へつけて頭を下げた。ホロホロはギョッとして頭を下げられている本人を見てみると、今さっきあったユルイ表情は跡形もなく消えていた。
「先程は大変失礼いたしました。
、未熟者でありますが家の使命の元、どうか葉様、アンナ様を主として護衛させていただくことをお許しください」
ホロホロはその場の居づらさから思わず一歩後退る。
(なんか俺、ココいちゃまずかったか…?)
その後ろではらはらと見守っていたまん太が口をパクパクさせて、その場の空気を裂くようにかん高い声で叫んだ。
「な、なんだってー!?」
すかさずアンナの強烈ビンタが炸裂する。うるさいわよ、と静かに呟いたが気を失ったまん太には届いていない。
暫く凛と張った空気の中に無言が続く中、ようやく葉は口を開く。
「許す」
小さく呟かれた言葉は微かな風にかきけされたが、近くにいたには十分だった。
「…ありがとう、葉兄」
ゆっくりと両手を相手の左手に伸ばして添えると葉の手の甲にそっとくちづけを落とした。
「腕を上げたな葉」
炎から少し離れた所でその様子を見ていた幹久が、夜空を見やり呟く。
「だが、全てはこれからだ。」