朝食




いつもより早い時間に目が覚めた。
時計は見ていないけれど、外の薄明るい感じがいつも自分が起きている時間より早いと感じたから。


「(あれ?)」

違和感

視界に広がる見慣れない天井。
いつものと違う布団。


寝起きで気だるい体をゆっくり起こして周りを確認する。上半身から掛布団が離れて周りの寒さが伝わってきて、思わず身震いする。

少し冴えてきた頭が昨日のことを思い出させ改めて自分は葉の護衛につくことができたんだ、と実感する。


「ふふ」


緩んでしまう頬。
気合いを入れるように両手でギュッと抑えてパチンと叩く。


「がんばらなきゃね」


寒さをふっきるように布団から勢い良く抜け出して、まだ寝ているであろうアンナ達を起こさないようにそっと部屋を出ていった。










みしみしと冷たい廊下を歩いて行く。元民宿とあってなかなか広い家に少し迷ったが難なく目的の場所へつくことができた。
暖簾をくぐるとふわりと良い匂いが鼻をついて少し驚く。まさかもう起きている人がいたなんて。


「あ」


偶然にも二人の声は重なった。



「おはようございます。ホロホロさん」

「おぉ、おはよ」


ニコリと笑ってみると彼も小さく笑い返してくれる。が、火にかけている鍋が自分の指に触れたらしくあちぃ!と言ってまた視線を鍋へと移した。


「朝ご飯、ホロホロさんが?」


邪魔にならない程度に近くに寄って鍋を覗いてみると大量の野菜が大胆に切られていて豪快に鍋にブチ込まれているのが見える。


「朝は俺と葉が交代でやってんだ。俺居候だし」


なるほど、と頷いて苦笑いする。


「手伝いますよ」


そこらへんに引っかかっていた少し大きめのエプロンを背中で結びながら言うと、ホロホロは少し顏をしかめた。


「…あのよ、普通にタメでいいんだぜ? 敬語とかさんとか慣れねぇしさ」


後ろ頭をかいて照れくさそうな仕草をする彼に、は緊張に似た糸がほぐれような気分になる。


「いいの?」

「そっちの方がいーだろ?」


ニカッと笑う彼には力強く頷いた。


「そんじゃ、そのへんの野菜頼むは」

「はーい」


野菜と包丁を交互に指差さされ、野菜を切るということで解釈すると包丁を持って慣れた手つきで切り始める。






それにしても四人と言う人数でこの量は少し多いのではないかと思い、ホロホロをちらりと見る。


「ひっ…」


鍋から出る黄色い泡に、油っぽい匂い。

見なければよかった、と思わず顏を背ける。幸い口から出た小さな悲鳴は鼻歌を歌いながら鍋をかきまぜるホロホロには聞こえていなかったらしくホッとする。


「(いやいやホッとしちゃだめだよ…)」


もう一度横目でそっと鍋を覗く。ちゃんと野菜を切る手は止めずに慎重に。


「ほ、ホロ…」


ボチャッ

不吉な音をたててソレはまた鍋の中へと落ちて行った。


「あ?」


至って普通と言った表情でホロホロは黄色いソレをグツグツとかきまぜる。


「…入れすぎじゃない? その、バター…」

「味付けはバターだろ?」


いや、うん。それは間違ってないけどね。


「どれぐらい使ったの?」


ホロホロの空いた手に握られているバターの箱をちらりと見る。


「一箱」


聞いた瞬間、バターの強い匂いに眩暈を起こした。


「これくらい普通だろ?」


とっくに限度越えてると思うけど…




とりあえず入れてしまったものは仕方ないので、そのまま朝食の準備は進められていった…。










無事(?)に朝食は完成して、ホロホロは葉やアンナを起こしに二階へ。私は朝食をテーブルに並べている。現在の時刻朝の五時。まだ寝かしておいてあげてもいいんじゃないかと言ったが彼曰く早い方が良いとのこと。

見た目は黄色っぽくなりそうなイメージだったバター煮の野菜達はまるで魔法の様に綺麗で美味しそうだった。ただ少しバターの匂いはするが。それにしても朝から四人でこの量はキツイと思う。


「おはよう

「あ、おはようアンナお姉ちゃん」


最初に来たのはアンナだった。
それからホロホロがまだ眠たそうな葉を引っ張ってきて無理矢理食卓へ座らせる。


が作ったの?」

「私は少し手伝っただけ。ほとんどホロホロがやってくれたんだ」

「そう」


アンナが一口食べる。は内心ひやひやしていた。なんたって大量のバターだ。

しかしアンナの言葉は意外にも好評だった。


「美味しいわよ」

「へ…「トーゼン! 味はバターで決まるぜ」


思わず間抜けな声を出してしまうが得意気に言うホロホロにかき消され気づかれずに済む。また口におかずを運んで行くアンナを見つめてから意を決して自分も野菜を口に入れる。

…まずくはない。むしろ美味しいとは思う。けれどやはりバターの味が後からものすごくきてホロホロには悪いがくどかった。口の中に残る油っぽさを消すためにご飯を口一杯に頬張る。

向かいでがつがつと美味しそうに食べるホロホロだが隣の葉は辛そうと言った感じでご飯の量は減っていないようだ。
そんな葉をみかねてホロホロはガッと肩を組んで大きな声で耳打ち(になっていない)する。


「残すなよ。食いもん粗末にする奴は地獄に落ちるぜ」


まるで脅し口調で言うホロホロに葉は涙目でバター煮野菜を頬張った。

ごめんね、葉兄…。