シスコン




「なんか暑くね?」


不意にホロホロが呟く。そう言われれば先程より少し暑いかもしれない。


「そう言えばそうだね……っ!」


突然ハッと顔を上げるに驚く。


「ど、どうした?」


ホロホロの問いに答えず、どこか遠く一点を見るその瞳に動揺が浮かんだような気がした。
暑さのせいでなく妙な冷や汗が一筋の頬を伝う。


「に、逃げてホロホロ」

「あ?」


言葉の意味がわからず、の目線の方に自分も視線を向ける。








瞬間

ビュンッと音を立てて黒い何かがホロホロとの間を横切る。





な、と声も上げる間もなく、赤い光のような何かがホロホロを包んだ。




ゆらゆらと自分を包むその光がなにかと理解するのに数秒。
分った瞬間反射的にオーバーソウルをするために構えたがとっくに遅かった。



ホロホロを包んでいるのは赤く燃え上がる炎。



死ぬ。

その言葉が頭を過ぎった刹那。




『情けねえな』


クク、と喉を鳴らすような笑い声が響く。
同時にあれ、と違和感を感じた。

確かに炎の中にいる自分の体。しかし体は燃えることもなく、熱ささえ感じない。まるで不思議な空間にいるようだった。

そっと閉じていた目を開いて覗くと、目の前に見知らぬ男の顔がありドキリとする。





「こら透桜!」


隣でが怒鳴ると、男は少し苦い顔をして無言で取り囲む炎を消した。


「ごめんねホロホロ大丈夫だった?」


心配そうに言うの声にはっと我に帰ったホロホロ。まだ驚きの表情が張り付いたままの顔でおお、と気のない返事をする。


「それより今の…」


なんだったんだ、と喉が引き攣り掠れ声がでる。


「あ。今のは、透桜の霊火≠チていうやつで、見た目だけの火で人に熱さは感じないんだけど…」


おどおどしながら紡ぎ紡ぎに説明するの表情はまるで自分が犯したミスの様に申し訳なさそうにするが、霊火を放った当の本人は悪びれる素振りも見せない。


『霊火に包まれたぐらいでびびるコイツがいけねぇ』


気に入らなさそうに二人の間にずい、と入り込みホロホロを睨む透桜。


『俺の可愛い妹分に近づくな』

「…は?」


思わず裏返った声が出た。
睨みながら尚ホロホロに詰め寄る透桜にも流石に声を張り上げた。


「すーおーう!!」


やめてよ、ともはや怒りを通り越して呆れた様子の。つまらなさそうに一度舌打ちをしてからホロホロから離れる。


やっと目の前から離れていったことで、頭からつま先まで透桜の姿を確認できるようになって驚いた。


「え、こいつ、霊」


膝下から透けた透桜の足。
しかも格好が着物姿。阿弥陀丸と同じ日本人の霊の様だ。


「そう。私の持ち霊の、透桜」


はは、と渇いた声で苦笑いするの言葉にぽかんと口が開けた。


だって、あれだ。
顔見た瞬間と何処か似てるような気がしたから、てっきり兄妹かと思った。さっき妹って言ってたし。

漆黒の瞳と髪。
色白の肌。
二人整った顔立ちで、目つきはあまり似ていないのだがなんとなく似たような感覚。それがはっきりしたものでなくてすごくもやもやするんだけれど、やっぱりどこか似ている。





一人頭の中で小さな葛藤をするホロホロの横。二人は会話を続ける。


「戻ってくるのは明日だったんじゃなかったの?」


そう言うと、透桜の表情が少し変わった。


『まあ、な…』


意味深に短く呟いて、透桜は軽くホロホロを横目で見てからその場から消えてしまった。





「なんか俺、嫌われてるみたいだな」


はは、と苦笑いすると、はその言葉を否定する。


「ううん。透桜は初対面の人にはいつもつっかかる人だから。特に男の人には凄い敵対心出すの…」


ごめんね、と言って困ったような笑顔を見せる



ホロホロは何となく理解した。
要するに透桜にとっては妹同然で、俗に言うシスコンだろう。

自分も妹が一人いるけれど、あそこまで溺愛した覚えはないが。


「そういうことか」

「え?」

「いや、なんでもない」


確かにって見た目によらずどっか抜けてるし、妹系連想させるかも。なんて思って一人で笑ってしまった。


「なんかホロホロ…変」


小さく呟いた言葉はホロホロの耳に届いてはいなかった。