ぬくもり
まっくろな世界
まぶたを閉じているのか開いているのかすらわからないくろの中にわたしはいた
ここはどこ
静かな世界でトクトクと響くのは
わたしの、おと
「 」
ふいに、違うおとが聞こえた
「……、…」
「…」
すこしずつおとが聞こえてくる
「元気になれよ、」
?
「早く目ェ覚ませ…」
ふわ、と、
そしてじんわりと
ぬくもりを感じた
やさしい、
わたしも…ふれたい
古い木のベッドの上に横になっている少女。
気だるそうにゆるりと重い瞼を開き、そこから銀色の瞳を覗かせた。
岩のようなゴツゴツした天井が視界に広がる。
「……」
首を右に向けると所々ひびの入った壁。左に向ければガラスの無い四角い窓がある。
首を動かしたことによって少女の黒く長い髪がベッドからするりと垂れた。
少女の顔は窶れており、酷く困憊していた。首を動かすのも辛くなり半分ほど開かれている瞼だけを瞳をきょろきょろと動かして周りを見回す。まるでなにかを探しているように。
しかしやがて瞳を動かすことも辛くなってきた少女は天井を向いた。
調度その時。
部屋のドアが鈍い音を立てて開かれた。
無言で入って来たのは見知らぬ少年。少女ほどではないが、少年の顔色も疲れきっている。
ツンツンとした空色の髪のを揺らしながら少女の横になっているベッドへと近づいていく。
ピタリとベッドの前で歩みを止めた。
「おま…」
薄くだが確かに瞼を開いている少女に驚きを隠せずにいる少年を、少女は不思議そうに見ていた。
少年の疲れた表情が安堵へと変わってゆく。
「やっと起きたのか、」
黒い世界で何度も聞こえた言葉だ。
その言葉に反応して微かに表情を変えた少女を少年は見逃さなかった。
「ああ、ってのはお前の名前。俺が勝手につけた名前だけど」
少年が人差し指を出して少女を、を示す。
そしてその指を自分に向けた。
「そんで俺の名前はホロホロ」
照れ臭そうに笑う少年の声に、は目をぱちりと開く。
やさしいおと、あたたかいぬくもり
この人だ
ふれたいと感じたのは
今体も満足に動かせないは、とにかく言葉で伝えようと自然に口を開いた。
「……」
しかし自分が出したいおと≠ェでない。
「……っ、…!」
それでも必死に口を開いたり閉じたりする。
そんなを見兼ねてホロホロは口を開く。
「声でないのか?」
は口を噤んだ。微かに息切れを起こしている。
ホロホロはそれを疲労と解釈した。
「とりあえず寝て体力回復した方がいい。辛いんだろ」
少年がいい終わる頃には双眸を閉じていた。余程意識を保っているのが辛かったのだろう。
「おやすみ」
ぽつりと呟くと、右手にひやりと冷たい感触が伝わる。何かと見てみると布団からはみ出たの手が自分の手に触れていた。
そっと両の手で包み込むようにして、優しく握る。自分の温度をに分け与えるように。
微かにの表情が和らいだ気がした。