爆破
もともとそんなに稼げる期待はしていなかったけれどさすがにここまでとは思わなかった。最近は不景気で特に酷い。
「仕事、ないなー…」
はぁ、と溜息をついてふらふらと歩く。
仕事がないなら探せば良いなんて家を飛び出してみたもののそう都合よく見つかるわけもなくて。
万事屋なんて器用貧乏なことしないで普通の仕事に就いてればよかった、と吐き捨て道端の石ころに小さなヤツ当たりを蹴飛ばす。
ふと顏を上げると見慣れない巨大な建物が建つ場所にいた。
いや、この建物テレビかなんかで見たことあるかも知れない。
「大使館…これ戌威星の大使館ですよ」
どこからか声が聞こえてああそうだ、と片手をぐーにして手をぽんと叩く。確か江戸城に大砲撃って無理矢理開国した…
そこまで思い出してからは苦い顏をする。
「…ヤなとこ来ちゃったな」
帰ろ帰ろ。
くるりと踵を返して元来た道を辿ろうと足を動かしたと同時。
ドカン!
「ひぎゃあ!?」
耳が痛くなるような爆音と爆風。かなり間近で爆発が起きたようだ。
体の小さなは吹っ飛ばされ、更にコンクリートの破片のが後頭部へ見事直撃。鈍い痛みに小さく唸る。視界が歪んで頭がくらくらした。
「手間のかかる奴だ」
男の声
しゃらんと金属がぶつかりあう音が響く。
「…余程運が悪いみたいだな」
微かに笑い声がしたが、朦朧とする意識の中何が起きたのかははっきりわからなかった。けれど誰かに空中で自身がキャッチされたのが確かに身体に伝わって。何故か安心した私はもう薄れかけている意識を完全に手放した。
ぽやーっと意識が戻ってくるのがわかった。あれ、でも目の前が真っ暗。寝惚けた頭でなんでだろー、と呑気に考えていると奇妙な音がした。
バン!
扉を乱暴に開けるような、
ドカドカドカ
続いて沢山の足音。
ああ多分大勢の人が押し込んでるんだなぁとまるで他人事のように予想する。
「御用改めである神妙にしろテロリストども!」
大きな声にビクッと肩が跳ね上がると同時にぐわっと視界が明るくなって気づいた。私瞼開けてなかったから暗かったんだアハハ。
「しっ…真選組だァっ!!」
「イカン逃げろォ!!」
「一人残らず討ちとれェェ!!」
上半身だけ起こしたの横を黒い制服を身に纏った男達が刀を持ちまるで嵐の様に一瞬で走り抜けて行く。
なにが起こったのか全く理解できず、打って変わる静けさの中ぽかんと座りっぱなしでいた。所でここどこなんだろう。
「なんでィ、ガキか」
不意に後ろから若い男の声がする。
「が、ガキって…!」
勢い良く声の方に振り返りギョッとする。失礼な私はもうガキなんて年じゃない!と喉まででかかった言葉を無理矢理飲み込んだ。
「こいつどうしやしょうか土方コノヤロー」
バズーカーを肩にかけた青年がを指差す。なんて物騒なものを持ってるんだろう。
「死ね総悟。とりあえず捕まえとけ」
と思えば今度は瞳孔全開の男。しかも真剣まで持っていて迫力が半端なものでない。
「…って、え、待ってくださいなんで私捕まらなきゃいけないんですか!」
しかし命知らずなのかは逆らう。
なにも悪いことしてません。と言うかここはどこなんですか。次々湧いてくる疑問のせいなのかさっきぶつけたせいなのか頭がまたくらくらした。
捕まえようとする総悟とか言うやつをギッと睨む。バズーカーがなんだ。
しかしここは狭い部屋。抵抗して逃げてもやがて追い詰められる。とうとう壁に背中がついて逃げ場を失ってしまうとさっきまでの目付きはどこへやらの漆黒の瞳が不安に揺らぐ。
諦めたように顔を背けて固く目を瞑った。
「(…あれ)」
しかしいつまでたってもなにもされないのを不審に思いそっと片面だけ開けてみると、総悟って人と思いきり目が合う。え、なに、私なにか変なの。
どうしていいか分からずいると彼は口に弧を描いて妖しく笑う。何故かその笑顔に寒気を覚え背中がぞぞっとした。
ぐるりと視界が反転
何故か担がれてしまいました。
「ぎゃあああ下ろして下さいィィ!!」
ジタバタ暴れてみるが恐ろしい程力が強い。ぎゃあぎゃあ耳元で叫んでみればうるせェと言われもう片方の手で肩に担いでいるバズーカーをかちゃ、と鳴らし遠回しに脅される。
それほど体力が残ってないのもあり抵抗を止めると総悟は満足そうに笑う。嗚呼、なんでこう不幸ばかり…
を担いだままどこかへ歩き出す総悟。ゆらゆらとそれに揺られながらを気づかれないように横目で彼を見ているとよいしょとバズーカーを肩から降ろして構える。
「…あの片手じゃ構えずらいと思いますし私逃げませんから降ろしたほうがいいんじゃ」
しかし聞こえていないかの如くスルーされて涙目。いつまでも担がれてると段々お腹圧迫されて苦しいんですが…
何度目かのため息をつくと、突然体の揺れが止まった。
「土方さん危ないですぜ」
間髪容れずに響く爆音と叫び声。後ろ向きに担がれているには前の状況は正確に把握できなかったが恐らく総悟がバズーカをさっきの瞳孔全開の人に向けて撃ったのだろう。
「生きてやすか土方さん」
また歩き出したとき、を担ぐ総悟の腕が一瞬緩んだ。チャンスと思いするりとは器用にそこから体を滑らせ抜け出すが最後が決まらず地面に尻餅。
「あ、てめっ」
痛がっている間などなく素早く立ち上がり走り出す。
「おい、こっちだ」
走りながら声のした横を見ると、さっきのバズーカに巻き込まれてしまったのか酷く強力なパーマをかけてしまったような銀色の髪の毛が目に入った。
「え、あ、」
その人は私の手首を掴むと走るスピードを上げて引っ張る。とりあえずさっきの真選組の人でないのは確かだったからその人についていくことにした。