記憶




「あああああのこれは一体どういうことなんでしょうか」


逃げ込んだのは小さな押入れのような部屋の中。私達以外にも大勢の人がいて詰め込み状態だ。
ちらりと先ほど助けてもらった爆発天然パーマの人を見る。


「おいヅラ。なんでこの子巻き込んじゃったのよ」


ヅラ、と呼んでいう方に向くと、くりんくりんの天然パーマとは対照的な女性顔負けの黒髪さらさらの男がこちらを見た。


「ヅラじゃない桂だ。大使館の爆発に巻き込まれ倒れていたから連れて来ただけだ」


ああじゃあこの人がさっき助けてくれたんだ、と納得する一方、何故武装警察真選組なんかに追われているのかと思った矢先。
周りの人たちの腰辺りに引っ掛けている物に気がついた。


「まさか…」


さぁー、との全身の血の気が引く。
この場にいる殆どの人が廃刀令に構わず腰に真剣をぶら下げていて。


…大使館の爆破なんてどう考えたってテロだ。そしてそんなことをする連中と言ったらあの人達しかいない。
これはもしかして、と言葉を発しようと口を開いたとき。


「オイッでてきやがれ!」
「無駄な抵抗は止めな!」


荒々しい声に思わず肩がびくんと跳ね上がる。真選組の人たちだ。


「ここは十五階だ、逃げ場なんてどこにもないんだよ!」


ああ神様、私はなんて恐ろしいことに巻き込まれてしまったんでしょう。



「…そりゃなんのまねだ」


不意に銀髪さんの声がして彼の見る視線の先を見ると、桂さんの片手に握られている丸いなにかがあった。


「時限爆弾だ」


…はい?


「ターミナル爆破のために用意していたんだが仕方あるまい。コイツを奴等におみまいする…そのスキに皆逃げろ」


いやいやそれ一個でターミナル爆破ってどんな威力ですか。私達全員木っ端微塵じゃないですか。


桂が立ち上がると、爆弾を持ったまま、真選組達の侵入を防いでいた襖の前に置いてあるテーブルやダンボールを退かしに手を伸ばした。

しかしそれを銀髪パーマが阻止し、ガッと胸倉を掴んだ。
ゴト、と反動で桂の手から爆弾が滑り落ちる。


「…桂ァ。もう、しまいにしよーや。てめーがどんだけ手ェ汚そうと死んでった仲間は喜ばねーし時代も変わらねェ、これ以上うす汚れんな」


そう言われ、桂は銀髪を睨んで自分の胸倉を掴む手首を掴んだ。


「うす汚れたのは貴様だ。時代が変わると共にふわふわと変節しおって。武士たるもの己の信じた一念を貫き通すものだ」

「お膳立てされた武士道貫いてどーするよ」


言って桂の胸倉から手を離した。


「またそんなもんのためにまた大事な仲間失うつもりか。…俺ァもうそんなの御免だ」


不意に銀髪の脳裏に一人の人物が浮かび上がって一度目を伏せた。
赤い髪を靡かせる一人の女の姿。


ゆるりと目を開いてもう一度桂を見る。


「どうせ命張るなら俺は俺の武士道貫く。俺の美しいと思った生き方をし俺の護りてぇもん護る。今も昔も変わらねぇ」


その瞳は、真っ直ぐだった。










横でそれを見ていたは目を見開いた。



―――俺の美しい生き方をし俺の護りてぇもん護る




知っている。

私はこの言葉を



この瞳を。







……ぎん、とき…?








ふらりと眩暈がした。
まるで思い出してはいけないかのように。







カチッ


一人葛藤するの後ろでそんな音が聞こえた。
振り向いてみると赤いチャイナ服の少女が先ほど桂が落とした爆弾を持っている。


ピッ、ピッ、ピッ


時計の秒針が揺れるような音が聞こえて、一瞬で事を理解したは青ざめた。そんなとは対象的に焦りもりない少女はそれを持って銀時の方に爆弾を向けた。


「銀ちゃん。 コレ…いじくってたらスイッチ押しちゃったヨ」


テヘ、と可愛く後ろ頭に手を当てる少女。





「…オイ。新八、神楽」


まるでそれが合図の如く。
神楽の手に握られている爆弾を銀時が素早く奪うと三人は一斉に部屋の襖をぶち壊し走りだした。


「!!」


派手な音と物凄い勢いに真選組達も思わず銀時に道を開けてしまう。


「な、なにやってんだ止めろォォ!!」

「止めるならこの爆弾止めてくれェ!! 爆弾処理班とかさ…なんかいるだろオイ!!」


言って走りながら左手に持つ残り時間十秒を示す爆弾を差し出す。


「おわァァァ爆弾もってんぞコイツ!」


一斉に銀時の周りから離れる真選組。


「っちょ、待てオイぃぃぃ!!」






そのまま窓の方へと走って行ってしまった銀時達をぽかんと見ていたの腕を誰かが掴んだ。


「捕まえた」

「あ…」


振り向くとそこには真っ黒な笑みを浮かべる総悟。
ハッと周りを見回すと桂達、攘夷志士達はいつの間にか消えていた。


「取調べ。屯所に来てもらいやすぜ」


言いながらずるずる引きずられて行くは本日何度目かわからないため息をついた。